《髙山由紀子監督インタビュー~日本画家・髙山辰雄氏アトリエにて☆彡》2015年02月16日 20:21

週末、映画監督・髙山由紀子氏(作品:娘道成寺~/他・源氏物語~)の取材で伺ったのがご自宅書斎。
そこはお父様である日本画壇最高峰・髙山辰雄氏の生前のアトリエ。/髙山画伯は東山魁夷氏と並ぶ日本画壇の双璧で、広く皆には『文藝春秋』誌の表紙挿画で周知される。
/その作品群を輩出した自宅アトリエに感動。そこは巨大な屏風絵も広げて入る特設壁面の広さを有し、イーゼルの代わりに壁に設置した台が上下して大作の全域に筆が届くよう特設されている。床は畳敷き。ここでかの名作「牡丹」が生まれたのかと思うと感慨深い。
★作品から伝心される髙山辰雄画伯の世界:「現実に存在しないものは描かない」と律してきたなかで、晩年初めて“鳳凰”を描いた。それは。2001年の個展『日月星展』の作品「雲煙に飛翔」。金地に黒色で描かれた雲煙の中を互いを気遣うように飛翔する鳳凰。この個展の表題“日・月・星”と同じく、人は自然と一つである…との境地の中で生まれた絵図であるという…。
(私事ながら、現在取り組む古代かなめの古墳時代の解明の取り組みの象徴として制作依頼したのが『鳳凰』図。
/治世の才たる象徴とされたのが、古代に南方位を司る“朱雀”、そこから派生して“鳳凰”をと掲げたので、日本画壇を代表する髙山画伯が、生涯で現存しないものを描くとして選んだのが『鳳凰』であった奇遇が、小さい重なりながらも嬉しく感じた次第…)

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髙山画伯が唯一書いた自画像がある。それは日展最後の出典作品となった『自寫(ジシャ)像2006年』
同年に足を骨折。絵を描くことも難しいなか、それでも絵を描かねば絵描きではないと振り絞って描いたのが、乳白色の朦朧とした画面に薄く浮かび上がるようなコートを着た全身像で、手に杖を握って佇む絵図。顔の表情も霞みわからないような陰影で、右上に白き月のような円が描かれている。
この絵図が表紙となっているのが、髙山由紀子監督が記した『父 髙山辰雄』の著書(没後、生誕百年記念出版)/角川書店。

その著書のなかで、この自画像にある”月”らしき白い円について「この月と思っていたのは太陽でも月でもないのでは…、あまりに深き謎を孕んでいる」と述べ、やがて最後を迎える最終章を前に、杖を握りしめて果敢に立ち向かう姿に感じ、「生と死への疑問の答えのないことへの怒りかもしれない」と…。

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髙山辰雄氏は大分県出身。生家は既に無いが、その多くの遺作大作が大分県内美術館に寄贈されている。

そして注目すべきは、30年以上続く「ジュニア美術展」。髙山画伯が1983年に文化勲章受章を期にその賞与を毎年子ども達の美術展開催にと始められ、入賞者には髙山作品のブロンズ像を授与。
この取り組みは県下全員の子ども達の出品意欲に繋がり、現在までで10万点に及び、地方絵画展の取組みとしては日本一。

ご自身のルーツとなる郷里に惜しみなく注いだ絵画制作への喚起。
それは回顧するところご自身の出生を辿る家は離散となっても、この上なくその地へどのように帰依するか…そんな留意があってのことではと、今現在私が郷里和歌山の地の古墳からの古代喚起をと注心する思いと少なからずを重ねて感慨を深める…。

故郷を離れて長きを経ても、生まれいずる場へどれだけ還せるか、何を後世に遺せるか、そんな思いを馳せることへ、故郷は限りなく受けとめてくれる。
いわく、上記著書で髙山由紀子氏がその描写として、
「…故郷は再び(遠く離れていた)父を迎えてくれた。

父が大分を愛するより、もしかしたら何倍も父を愛していてくれたかもしれない故郷」…。

この一節→“(自分が)愛するより、何倍も愛してくれていたかもしれない故郷…”この一言に胸が熱くなった…。

自分の故郷に置き換えて復唱してみた…。

故郷を離れても、故郷をひとたびも忘れることなく、自分を生みいずる地の故郷へ、故郷を離れて培ったことをどれだけ戻せるか…そんな思いで、私も今を“走っている”。

髙山画伯の代表作は東京の地でなく、故郷・大分で多くの郷里の星(子ども達)に触れる場所で佇んでいる。

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「父は星や宇宙が好きだった」で始まる『父・髙山辰雄』の著者・髙山由紀子監督とのインタビューは予定時間を大きく超え、和歌山の御坊講演の際にお泊り頂いた天文台のことに話が及び、星を愛でる場で泊まれる紀伊半島最西端の地は素晴らしかったと感銘を重ねて下さいました。
その地でメガホンを執って制作された『道成寺 蛇炎の恋』。
私が顕彰する有間皇子の古墳と同時期に創建された道成寺にまつわる伝承を元に制作。(同地ご縁は嬉しき奇遇…)
この日はお父様のアトリエというとてつもない空間での体感を並行しながらのインタビュー取材。
/様々に広がる思いを胸中の機会となりての一考。

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●髙山辰雄(1912~2007) 日本画家
現・東京藝術大学 日本画科卒/ 卒後松岡映丘に師事。
1975~ 日展理事長/常務理事
1982 文化勲章
大分市名誉市民/世田谷区名誉区民
●髙山由紀子
慶応義塾大学卒
作家・脚本家/映画監督
2003年映画作品「娘道成寺 蛇炎の恋」→ワシントンDCインディペンデント映画最優秀賞
小説:
「源氏物語 千年の恋」 東宝映画化
「吉原代筆人 雪乃」(角川文庫) (現在シリーズ連作中)